ラピスラズリ

無機質なはずの世界でもきっと喜怒哀楽の感情や、赤から紫の虹の色、音や香りもしっかりあって、そんな世界で人のことを好きになって、会ったこともないはずなのに何かあったら心配になって、お互い言葉を掛け合って、励まし合って、笑い合って。
 
 
「もともと近くになんていなかったんだから」たしかに他人から見たら吹いたら消えてしまう煙のような存在に見えるのかもしれないけど、こんなにも寂しく感じるっていうことはやっぱり本当に近くにいた証拠で、一緒に見た色や感じた匂いは間違いなく本物だったんだ ということをぽっかり空いた穴の大きさの分だけ痛感する。
 
 
もしも一緒に過ごしたそのひと時が、飛び続けることに少し疲れた鳥が止まり木で羽根を休める間の休息の時間だったなら、また元気に青空に飛び立ったんだと思って、それを喜ばしく思うべきで。
ついつい「もっと一緒にいて欲しい」という自分の気持ちを押し付けてしまいそうで、「もう少し一緒にここにいたらいいじゃん」なんて鳥籠の中に囲いたくなるけど、そんな自分の寂しさなんかで飛び立つ先の空の色を濁らせたくはない。
 
 
気持ちの整理なんてそう簡単にはつかず、清々しい空の青色が今はただ無性に寂しくて、その寂しさを誰かと分かち合いたくて、鳥籠の中でたむろして。
 
 
でもあんまり寂しがってばかりだと元気に飛び立った空の彼方で「何やってんだよ」って笑われそうだから、「楽しそうにやってんねえ」って思ってもらえるよう、みんなで笑ってた方がいいか。なんて頭では思いつつ。
結局割り切ることできないから思ったままをこうやって記号を羅列して吐き出した気になって。
一列に並んだ記号から自分の感情を読み解いてはまた寂しさを反芻して。
 
 
あの時の温もりが残っているかも と何度も鳥籠の中を見返してみるけど、やっぱりただの痕跡で、記憶とともに日に日に黒く塗りつぶされていって。
記憶の中の屈託のない明るさと、目の前の黒さの対比に目が追いつかなくて、ようやく目が慣れた頃にはやっぱりもういないのかと強く思い知らされる。
 
何をしたら今までもらった優しさに報いることができるのか 少しでも自分がこの寂しさから救われたい、逃れたい一心で考えるけど、そんな身勝手な願い思いつく訳もないし喜ばれる訳もない。
 
 
ラピスラズリいう青い石はかつて金よりも高価に扱われていたらしい そんな話を思い出した。
たしかにみんなを繋いでいる糸は青い色で、金よりも大切で、金よりも輝いてるなぁ と今なら心から思える。
 
 
しっかりやれと、がんばってこいと、かけてくれた優しい言葉とそのぬくもりを胸に、皆で歌ってくれた歌声を糧に、作品を作ろうとこうやって筆をとるけど、安易に今の気持ち自体をそのまま題材にしようとしている自分の業の深さに辟易するけど、それでも「できたよ!」と胸を張って見せたいから、だからどこかで見ててね と決意を胸にするけど、まだ今のボクには空の青さが眩しすぎて。
 
 
みんなを繋いだ青い色を作品に使いたいから、作品のタイトルはラピスラズリ【RApis lazuli 】にするよ。
大切な二文字を頭文字に刻んで。この空よりも美しい青色になりますように と想いを込めて。
 
 
またみんなで集まろうと言ってくれたその言葉を嘘にしてしまわないよう、青色を目印に掲げていつかその言葉をボクのこの手で本当に出来たらと心から思う。
 
 
あの時はよかった なんて昨日のことを懐かしがったり、有難がったりするのは一切ごめんだから、だから先へ進もう と今なら少し思えるから。
まだ足を前に踏み出すのは少し億劫だけど、振り向く方がはるかに楽なことだけど、昨日よりも楽しい明日を、明るい明日を作るために今は鉛のように重い足を1mmでも前に踏み出せるように。
世界で一番美しい青色を紡ぎ出せるように。
その青色に恥じない生き方ができますように。
青い空よりも明るく澄んだ笑い声をあげられるように。

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